2006年 05月 28日
嫌がらせ。
『狼』
蒼鳥は女にモテた。思春期になってそれを実感した。十四かそこらの時が初体験だった。相手は誰だったかろくに覚えちゃいなかったがクラスメイトだった。目的は性欲の発散だった。それから男女間の愛情がわからなくなった。同世代の男友達が告白するか告白しないかで一喜一憂しているのが馬鹿みたいに見えた。そんな回りくどい事をする神経が理解できなかった。 十九まで蒼鳥は男が女を口説く目的は全てセックスだと思っていた。そういう世界しかありえないと思っていた。テレビでやっている恋愛討論が上辺だけの綺麗事に見えて吐き気がした。だが、その世界も唐突に崩壊した。蒼鳥は生まれて初めて恋をした。相手は同じ大学のゼミ仲間だった。蒼鳥の友達の七星の彼女だった。 容姿は普通だった。今まで抱いた女に比べれば見劣りした。ただ優しかった。表裏がなかった。惹きつけられ、魅了された。 蒼鳥は思った。あの女はただ俺の友達の彼女だからそう見えるだけだ、特別、好きなわけじゃない。結論を下して一年が経った。それでも、想いは色褪せなかった。彼女に近づけば近づくほど自分が薄汚れて見えた。なんと道徳も倫理もないことかと生まれて初めて後悔した。後悔し続けた。 さいなまれながらも転換期がやってきた。彼女は七星と仲が悪くなった。理由は七星が浮気したからだった。七星は何もしないのにモテた。彼女と同じく、ただ優しかった。 蒼鳥は飲み屋で彼女を慰めた。自分の事を全て棚にあげて「浮気なんて最低だ」「俺だったらそんなことしない」とお題目を並べ立てた。彼女を落としてやろうと思った。今までの経験を全て注ぎ込んで落とした。ベットを彼女と共に過ごし、狂喜した。 彼女と付き合って三週間が経ち、彼女は言った。 「蒼鳥君、ありがとね。あなたは女の子に優しいからあたしを慰めてくれたんでしょ。元気でたよ」 違うんだ——蒼鳥は訴えた。君のことが好きなんだ。誰よりも好きなんだ。彼女は屈託もなく微笑んだ。 「うん、ありがとう」 彼女は七星の元に戻った。二人は今度は仲違いすることなく幸せになった。四年経って結婚式の招待状がきた。彼女からの手紙も添えてあった。 「女の子の扱いうまかったよね。そろそろ誰か良い娘と結婚するの?」 純朴な彼女の無邪気な言葉は残酷だった。蒼鳥は彼女と付き合った三週間を思い出した。彼女はきっとホストクラブにいるようなものだっただろう。誠実な態度は逆に不誠実にみえてしまっただろう。 蒼鳥は結婚式にはいかなかった。ただ灰皿の上に招待状を置いて火をつけた。手紙が真っ黒な灰になってから蒼鳥は彼女の名前を小さく呟いて涙した。 ふっ、ただの嫌がらせだよ。本人達の設定が変わりすぎているから本人とは全く似ていないが。 まぁ、あれだ。自分がこういうのを書きたかっただけに過ぎないんだよ。
by coral3332
| 2006-05-28 18:44
| 短編小説
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